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2024.12.16NEW

お疲れ様です。設計スタッフの白井です。

 

11月下旬に海外研修旅行でスペインへ行かせていただきました。研修の目玉としては芸術の街バルセロナにあるガウディの建築群と、バルセロナから車で約1時間半北上した地方の街オロトにあるRCR アーキテクツ(以下、RCR)の建築群です。

 

バルセロナを都とする地中海沿岸地域は年間を通して温暖な地域であり、豊富な海と山の幸に恵まれています。湿度が低いことを除けば静岡と近しい環境なのかなあなんて想像しながら、現地では東洋と西洋の自然観の違い、豊かな自然環境と建築がどのような関係性を持っているかに着目しながらいくつかの建築を巡りました。

  

以下、印象に残った建築をご紹介できればと思います。

 

人口約3万人の地方の街オロトに拠点を構えるRCRによる「トゥッソル・バジル陸上競技場」です。かつて農地、林、石垣のあった一帯をレジャー・観光地に整備する事業として陸上トラックやサッカーコート、管理棟、その他パヴィリオンなど複数の建築物を計画しています。

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接道と高低差のある敷地で、道路より低い位置に整備されたトラックから管理棟を見ている写真です。

 

暗!!って感じです。既存樹木と思われる高木の影と同化し、まるで存在しないかのようにひっそりと佇んでいます。一般的な建築物の外観は外壁、窓、雨樋、照明、場合によっては手すりなど複数の要素によって構成されますが、この建築物の外観は外壁として使用されている耐候性の高いコールテン鋼で全てが覆われており単一の要素によって構成されているため、より周辺の樹木や雲一つない空が美しく引き立って感じられます。まるでオロトには多様な植物があることや空が広く見えるのだということを教えてくれているようです。

 

 

オロトより東へ。海の方へ車で約1時間半、パラモスという地域の山間部にある「ベル=リョク・ワイナリー」です。ワイン貯蔵庫が要望され、貯蔵に適し安定した温度が確保できる地下に建築のほとんどを埋めています。地下にはテイスティングルームやラボが計画され、地上にはブドウ畑が整備されています。

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地下にあるテイスティングルームの写真です。

 

訪問したのは日没ギリギリの17時頃で、柔らかい光が上部に穿かれたスリット窓から差し込んでいます。内部に照明は最小限しか計画されていないため、暗!!です。外部との接点を限定することで光を象徴的に演出し、この空間にかかせない切実な要素として美しいものに昇華しています。また天候や時間によっても光の強さや差し込む方向は変化します。つまりここではこの光を介して外部の状況を理解、想像することができます。外部との接点を極限まで絞ることも建築と外部の上品な繋がり方なのだなと学びました。

 

 

紹介した2つの事例に共通しているのは私↔(建築)↔場所という図式です。建築が場所やそこで起きる自然現象の美しさを私に伝える翻訳機のように間を繋いでくれたおかげで、その建築だけでなく建築が存在する場所や時間にも発見や気づきが多かったように思います。(その時、建築は過剰な自己主張をせずあくまで黒子のように徹してくれているのです)個人的には建築だけでなく映画や小説でもそれを体験することで、見慣れた風景や習慣化された生活の認識を変えてくれるものが豊かだなあと考えているので、建築という小さな部分の経験を通して周辺の樹木、空、光、太陽、地球までより大きな全体へと繋がり、広がる視座を与えてくれたRCRの建築は印象的でした。

 

では現在進行中の物件で、いざ!!と行きたいところですが、具体的にどのように応用できるかは正直まだよくわかりません。とりあえずは視野を広げるトレーニングとして、建築だけでなく敷地、方角、周辺建物、道路、川、山、海など、目の前の体験の外側にある大きなものとの関係性の中に心地良さや豊かさのヒントが隠されていると信じて、「いったん引いて見てみる」というクセをつけるよう心がけて生活していこうと思います。

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